はじめに
精神の障害による障害年金は、統合失調症やうつ病など多くの精神疾患が対象となります。しかし、「人格障害(パーソナリティ障害)」および「神経症」は、障害認定基準において原則として認定の対象外とされています。
本コラムでは、その理由と制度上の位置づけ、そして例外的に認定されるケースについて整理します。
人格障害と神経症は原則対象外!?
人格障害とは、ICD-10※では「F60-F69 成人の人格及び行動の障害」に分類され、思考、感情、対人関係、行動のパターンが長期間にわたり偏り、社会生活に支障をきたす状態を指します。境界性パーソナリティ障害、不安性パーソナリティ障害、依存性パーソナリティ障害などが代表例です。
また神経症は、パニック障害、強迫性障害、適応障害、PTSDなどに代表される精神疾患群であり、主に心理的要因と関連して発症する精神障害とされています。
これらは精神疾患であるものの、障害年金制度上は原則として認定対象外とされています。
障害認定基準(第1章第8節/精神の障害)では、次のように明記されています。
・人格障害は、原則として認定の対象とならない
・神経症は、その症状が長期間持続し、一見重症なものであっても、原則として認定の対象とならない
※注釈:ICD-10とは
ICD-10(International Classification of Diseases, 10th Revision)は、世界保健機関(WHO)が定めた疾病分類であり、すべての疾病に分類コードが付与されています。精神疾患は「Fコード」で分類されており、例えばF32はうつ病、F31は双極性障害、F60はパーソナリティ障害を示します。障害年金の審査においては、診断書に記載されたICD-10コードが、精神病の病態に該当するかどうかを判断する重要な参考資料となります。
障害年金の対象外とされる主な理由
障害年金は、傷病により長期にわたり日常生活または就労に著しい制限が生じている状態を対象とする制度です。
神経症は、主に環境要因や心理的ストレスを契機として発症するものであり、一般的には適切な治療や環境調整により症状の改善が期待できる疾患群とされています。また、その症状は本人の苦痛が大きい場合であっても、精神機能の持続的かつ重度の障害として固定的に認められるとは評価されにくい性質があります。
人格障害についても、思考様式や行動傾向の持続的な偏りにより日常生活や対人関係に支障が生じることはありますが、これは精神機能の障害というよりも、性格特性や行動パターンの問題として位置付けられております。
このように、神経症および人格障害は、その成因や症状の特性から、精神機能の器質的または持続的な障害として評価される精神病性障害(統合失調症、うつ病等)と同一の障害状態とは認められにくいため、障害認定基準においては原則として障害年金の認定対象外とされています。
例外的に認定される場合がある
もっとも、人格障害や神経症であっても、例外的に障害年金の対象となる場合があります。
障害認定基準では次のように規定されています。
―その臨床症状から判断して精神病の病態を示しているものについては、統合失調症又は気分(感情)障害に準じて取り扱う。―
ここでいう「精神病の病態」とは、ICD-10における次の疾患群に相当する精神機能障害の状態を指します。
F2:統合失調症、妄想性障害など
F3:気分(感情)障害(うつ病、双極性障害など)
人格障害や神経症であっても、
・重度の抑うつ状態
・強い意欲低下
・思考障害
・精神機能の著しい障害
など、精神病と同様の病態を示している場合には、障害年金の認定対象となる可能性があります。 人格障害については明確な例外規定の条文はありませんが、実務上は神経症と同様に、精神病の病態を示している場合には認定対象として取り扱われる可能性があります。
申請時の重要なポイント
障害年金は書類審査によって認定されるため、診断書の記載内容が極めて重要です。
(1)傷病名(診断書①欄)
人格障害のみではなく、
・うつ病(F32)
・反復性うつ病性障害(F33)
・双極性障害(F31)
などの気分障害が併記されている場合、精神病の病態を示していることの根拠となります。
人格障害、とくに境界性パーソナリティ障害は、うつ病を合併することが多いとされており、この合併症が認定の判断において重要な要素となることがあります。
(2)備考欄(⑬欄)の記載
診断書の⑬備考欄に、「精神病の病態を示している」および該当するICD-10コード
が記載されている場合、精神病水準の障害であることを示す重要な資料となります。
(3)日常生活能力の著しい低下の存在
人格障害や神経症で障害年金の対象となるためには、
精神病の病態を示していることに加えて、日常生活能力が著しく低下している状態にあることが必要です。具体的には、
・身の回りのことを自力で行うことが困難
・継続的な就労が困難
・援助なしでは日常生活の維持が難しい
など、統合失調症や気分障害と同程度の生活機能障害が認められることが重要となります。
まとめ ~早めにご相談を~
人格障害および神経症は、障害認定基準において原則として障害年金の対象外とされています。
しかし、
・精神病の病態を示していること
・かつ、日常生活能力の著しい低下が認められること
という要件を満たす場合には、人格障害や神経症であっても障害年金の対象となる可能性があります。
障害年金の認定は診断名のみで決まるものではなく、診断書の記載内容および日常生活への影響を含めて総合的に判断されます。人格障害や神経症で請求を検討される場合には、認定基準を踏まえた適切な診断書の作成と申請準備が重要となります。
障害年金の請求にあたっては、制度と認定基準に精通した私たち社会保険労務士に相談することで、それぞれの状況に応じて適切な判断と手続を進めることができます。不安な点がある場合は、早めに相談されることをお勧めいたします。
